否定

出典: 一般システム学

英語では、否定的な意味の単語には、“no”、“not”、“none”、“negative”、“never”、“neither”など、“N”で始まる語が多い。これは、英語に限らず、ヨーロッパ言語に共通して見られる現象である。

“N”というアルファベットの起源は、蛇の形を象形したエジプトのヒエログリフに遡る。だから、アルファベットの“N”あるいは“n”は、蛇の蛇行した形態を象ったものということになる。

英語で「蛇」を意味する“snake”は、原印欧語の“(s)nēg-o-”で、“negative”などと同語源である。サンスクリットでは、「蛇」は「ナーガ(nāgá)」であるが、これも語源は同じである。ナーガは龍をも意味し、だから、ナーガルージュナは「龍樹」と漢訳されている。

蛇は、古代の象徴空間においては、地母神のペニスであり、胎内回帰のための橋である。去勢体験を通して、蛇は、胎内回帰を禁止する記号となった。蛇はファルス化されて、龍となった。蛇と龍は、父権宗教において、禁忌の対象である。これが、否定的な単語が“N”で始まる理由だろう。

日本語では、否定の形容詞および助動詞は、「ない」であるが、語幹は「な」で「い」は語尾である。「良くなさそうだ」のように、語幹の「な」が単独で使われることもある。また、「な」は、禁止の終助詞としても使われる。かつては、フランス語の“ne … pas”のように、「な+動詞+そ」でもって、「…するな」という禁止を表した。

日本語のひらがなの「な」およびカタカナの「ナ」は、漢字の「奈」から作られているが、中国語の「奈」には否定の意味はない。「奈何」で「なぜ」という意味を表すだけである。中国語の否定語は、唇音の明母に属する字が多い。しかし、印欧語族の否定語と日本語の「な」との間には、何らかの関係があるかもしれない。